キャンベル：たしかに＜スター・ウォーズ＞には納得のいく神話的な視野があります。それは国家をひとつの機械として示し、「この機械ははたして人間性を粉砕するのか、それとも人間に仕えるのか」という問いを出します。人間性は機械からではなく、心から生まれるのです。

私が＜スター・ウォーズ＞のなかに見るのは、「ファウスト」が私たちに投げかけるのと同じ問題です。機械人間であるメフィストフェレスは、我々にあらゆる手段を提供するので、生の目標さえ決定しそうに見える。だが、もちろんファウストは、持ち前の特性のおかげで救われる。その特性とは、機械が求めるのとは違う目標を探し求めていたことです。

さて、ルーク・スカイウォーカーが父親の仮面を剥がすとき、彼は父親が演じてきた機械の役割を取り去るわけです。父親は制服でした。それは力であり、国家の役割です。

モイヤーズ：我々は自己のイメージに従って世界を改造したい、我々がそうあるべきだと思った通りに作り直したい、という願望を持っており、機械はそれを実現するのに役立っている。

キャンベル：そうです。ところが、そのうち機械が人間に指図を与える時期がやってきます。例えば、私は例の素晴らしい機械、コンピュータを買いました。いま私は神々に関する一権威者といったところです。コンピューターをそんなふうに見てるんですよ。旧約聖書に出てくる、たくさんの掟を持つ情けを知らぬ神みたいなものだと。・・・

キャンベル：コンピューターの画面で起こる事は奇跡です。ああいう機械の内部を見たことがありますか？

モイヤーズ：いえ、そのつもりはありませんが。

キャンベル：信じられないでしょうな。あゆる階級の天使が並んでいますよ。ごく小さな板切れに、そしてあの細いチューブ。あれは奇跡です。

私は自分のコンピューターから神話についての啓示を得ました。あるソフトウェアを買うと、そこに自分の目標を達成するために必要なすべての記号がセットされているのです。別のシステムのソフトウェアに属する記号をいろいろ操ったところで、なんの役にも立たない。

神話においても同様です。重要な神秘の隠喩が父親的な神話を持っているとしますね。すると、いつか別の信号体系にぶつかる。それは世界の知恵や神秘の隠喩が母親的な神話から出てきた信号体系です。それらは二つの申し分なくすぐれた隠喩です。どちらか一方だけが事実ではない。隠喩とはそういうものです。この宇宙はまるで父親だ。この宇宙はまるで母親だ。イエスは「私を通らなければ、誰も父のもとに行くことができない」と言っておられる。イエスが語っておられるのは聖書的な父親です。私たちはイエスを通らないでは父のもとに行けないのかもしれません。反面、母親を通って行くことを想像してみてください。その場合、あなたは、カーリー神や、女神への賛歌などをより好むかもしれません。要するにそれはあなたの生命の神秘に至るもう一つの道なのです。それぞれの宗教が独自の、そして有効な信仰体系を持った一種のソフトウェアであることを理解したいものです。ある人が本当にある宗教にのめり込み、それを基盤にして自分の人生を築こうとするのなら、その人は自分が得たソフトウェアだけを用い続けたほうがいい。でも、この私みたいに、あれこれのソフトウェアもて遊びたい人間は、たぶん聖書に近い経験を持つことは永久にないでしょうな。

モイヤーズ：しかし、最も偉大な聖者のうち幾人かは、可能ならばどこからでも借りてきたんじゃないでしょうか。こちらからも借り、あちらからも借りして、新しいソフトウェアを作り上げてきたのでは？

キャンベル：それが宗教の発達と呼ばれるものです。聖書の中にもそれが見られます。最初、神はただ単に多くの神々のなかでいちばん強い神、一地方の部族の神であるに過ぎません。その後、紀元6世紀ですが、ユダヤ人がバビロンで流刑生活を送っているあいだに、救い主がやって来るという思想が生まれ、聖書の神は新しい次元に入るのです。

古い伝統を守るには、必ずそれを現代社会の状況や条件に合わせて革新していかなければなりません。旧約聖書の時代には、世界は小さな三層のケーキに過ぎませんでした。中近東の中心部、周囲三、四百キロというのがその世界の全部だったのです。アステカ族のことなど、いや、中国人のことでさえ、誰も聞いたことがなかった。世界が変わると、宗教も変わらざるをえないのです。

モイヤーズ：げんに私たち自身がそうしていると思いますが？

キャンベル：実際そうあるべきです。しかし、本当に恐ろしい状況は、今ベイルートで見られるとおりだと思います。あそこには西洋の三つの偉大な宗教がありますーーユダヤ教、キリスト教、イスラム教、そして、その三つが同じ聖書の神に三つの違った名前を与えているために、仲よくやっていけない。彼らは自分たちの隠喩のおかげで行き詰まっており、その隠喩がなにを意味するのかを理解していないのです。彼らは自分たちを取り巻く円環が開くのを許してこなかった。これは閉じた円環です。それぞれのグループが、「われわれは選民だ。われわれには神がついている」と言っています。・・・

モイヤーズ：そして、私と同じ服装をしていなければ同類とは見なさない。

キャンベル：そう。そこであらためて神話とはなにかと問うてみましょう。辞書の定義によれば、神話とは神についての物語です。そこで次の疑問が出てくる。神とはなにか。神とは、人間の生命の営みのなかでも、また宇宙内でも機能している動因としての力、ないし価値体系の擬人化です。

あなた自身の肉体のさまざまな力と、自然のさまざまな力との擬人化です。神話は人間の内に潜んでいる精神的な可能性の隠喩です。そして、私たちの生命に活気を注いでいる力と全く同じものが世界の生命にも活気を与えているのです。ただし、特定の社会や、その社会の守護神だけに関わる神話のあります。言い換えれば、全く種類の異なる二つの神話があるというわけです。一方に、私たちを本来の人間性と自然世界とにーー私たちがその一部である自然世界とにーー結びつける神話がある。他方には、厳密な意味で社会的な神話が在り、これは私たちをある特定の社会に結びつけます。私たちは単なる自然人ではなく、ある特定の集団の一員です。ヨーロッパの神話の歴史をたどると、これらの二つの体系の相互作用が見えてきます。一般に特定社会を重視する神話体系は、絶えず移動している遊牧民族のものであり、それだけに人々は、自分たちのグループの中心がその神話にあることを学ぶのです。自然を重視する神話はたぶん農耕民族のものでしょう。

さて、聖書の伝統は社会的な方向性を持った神話体系です。自然は悪しきものとして呪われています。19世紀の学者たちは、神話と儀式とを自然を支配するための試みとみなしました。しかし、自然を支配しようとするのは魔術であって、神話や宗教ではありません。自然宗教は自然を支配する試みではなく、人々が自然と調和して生きていくことを助ける試みです。ところが、自然を悪とみなしたとき、人は自然と調和を保つことができず、自然を支配する。あるいは支配しようと試みる。おかげで緊張と不安が生まれ、森林の大量伐採や、原住民絶滅といった結果が生じる。つまり、そういうものの言い方が私たちを自然から分離させるのです。

モイヤーズ：私たちがいとも簡単に自然を征服したり従属させたりするのは、そのせいですか。自然を軽蔑してきたから、自然をただ人間に仕えるものとみなしてきたからですか？

キャンベル：そのとおりです。私は日本を訪れたときの経験を決して忘れないでしょう。原罪による堕落も、エデンの園もまるで聞いたことのない国です。

神道の聖典のひとつに、自然の営みが悪しきものであるはずはない、と書いてあるのです。あらゆる自然な衝動は矯正するのではなく、昇華すべきである、美化すべきものである。自然の美と、自然との協力とに対するすばらしい関心がありますから、日本の庭園のいくつかでは、どこで自然が終わって人工が始まっているのかわからない。これはすごい経験でしたよ。

モイヤーズ：しかし、現在の東京はその理想をひどく鼻持ちならぬ形で裏切っているじゃありませんか。東京はーー少数の人々がまだ大事に保っている小さな庭園内を除けばーー実質的には自然が消滅してしまった都市ですよ。

キャンベル：日本には「波に乗る」と言う言い回しがあります。私たちがボクシングで「パンチを受け流せ」と言うようなものです。ペリーが日本の開港を強制してからまだ125年しかたっていません。その間に彼らは途方もなく大量の機械的物質を同化しました。ところが、私が日本で見いだしたのは、日本人がそれに埋没することなく、しっかり頭をもたげて、この機械世界を同化していったという事実です。ビルのなかに入ると、やはり日本に戻るんです。ニューヨークみたいに見えるのは外面だけですよ。

モイヤーズ：「しっかり頭をもたげて」というのは面白いですね。彼らの周りに都会がにょきにょき現れるけれども、内面的な人間が住んでいる魂のなかにおいて、彼らはいまだにーー先生が言われるとおり、自然と調和している。